bスポーツ開発の社会背景

日本のような高齢長寿社会においては、認知症が大きな社会問題となっています。決定的な治療法が具体化していない現段階では、高齢者の脳の健康を維持する予防的対策が重要です。近年、認知症と正式に診断される前の段階として、「軽度認知障害」(Mild Cognitive Impairmentの頭文字からMCI)という状態があり、MCIの段階を早期に発見し、適切な介入を行えば、認知症への進行を防止できる可能性が高いことがわかってきました。また、MCIになる前の健康なうちから予防的な措置として様々な介入手法が日々提案されています。ただし、本当に効果のあるのかどうかがはっきりわかっていない怪しいサプリなども販売されていたりします。
そのようななか、世界保健機構(WHO)は、2019年に『認知機能低下および認知症のリスク低減(Risk Reduction of Cognitive Decline and Dementia)のためのガイドライン』を発表しました。このガイドラインのなかで、①適度な運動や、②禁煙、③バランスの取れた栄養食、など12種類の予防法が推奨されています。このうち、認知神経科学やその応用技術の開発を専門とする著者は、⑤認知トレーニングと⑥社会活動に着目しました。ただし、①~③などの科学的なエビデンスが明確である「強い推奨」対象と異なり、⑤認知トレーニングは「条件による」と、⑥社会活動に関しては「十分なエビデンスがない」という注釈がついており、これらの項目に関しては今後の発展が期待されていることがわかります。そこで著者は共同研究者とともに、後述する独自技術に基づいた認知トレーニングシステムを社会活動として行うサービスが効果的と考え、そのモデルとなる技術や科学的なエビデンスの収集に取り組むことにしました。それが脳波による脳トレ競技「bスポーツ」です(bはBrainの頭文字)。本稿では、その開発背景や、コア技術、意義、今後の展開案などをご紹介します。

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