コンテンツ開発①:「紙芝居ゲーム」

これを何とかゲームとして感じられるようにするために、まずは日常的かつゲーム的な状況をモデル化したイラストを用いました。たとえば、非標的(A)として釣りの場面で水面にウキが浮かんでいるイラストを使います。これに対して標的(B)はそのウキが沈んだ瞬間を示すイラストです。釣りでは、ちゃんとウキに集中しておいてウキが沈んだ瞬間にすかさず竿を立てないと魚が逃げてしまいます。この状況をゲーム化するために、標的(B)が出た瞬間(1秒以内)にその1回きりの事象関連電位の反応強度(線形判別分析における判別得点)を計算し、それが先行する数回分の非標的(B)に対する反応強度よりも強かったかどうかを即時に定量比較し、その結果に応じてイラストを切り替えました。もちろん、標的(B)の方が非標的(A)よりも強い場合は「成功」で、成功らしい画像(C)が提示されます(釣りの場合は魚を釣り上げたイラスト)。一方、標的(B)の方が弱い場合は「失敗」で、失敗らしい画像(D)が提示されます(釣りの場合は魚に逃げられたイラスト)。このようなA~Dのわずか4枚のイラストのセットで表現できる状況として、野球や虫捕り、回転ずしなど高齢者にも馴染みのあるシーンを8ゲーム分用意し、3試行ずつ計24試行実施した時の成功率を調べることにしました。標的に対する反応が非標的に対する反応よりも強いかどうかの判断は二者択一です。そのため、偶然で成功する確率は50%でしたが、高齢者を含む11名の健常者の方々で実験すると約82%の成功率でゲームを実施できることがわかり、脳波スイッチでもリアルタイム感のあるゲーム操作ができることが実証できました(長谷川ほか日本感性工学会論文誌2021a)。数十回の試行のデータに基づいてオフライン解析を行うこれまでの常識に慣れた研究者仲間は、たった1試行でリアルタイムに高精度の解読ができるシステムを見て大変、驚いてくれます。もちろん、このような常識の壁を越えるためにハード面でもソフト面でも多くの苦労をしたのですが、まずはチャレンジすることの大事さを自分でも実感しました。

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